ここ夏文庫
スポンサーサイト
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
【--/--/-- --:--】 | スポンサー広告 |
桜、早すぎる春 -9-
ドキっ。詩織は言葉の意味をとらえ損ねた。なんだろう。

どういう意味かしら。聞いてみたい。でも、なんだか怖い。

詩織は聞こえない振り、関係ないという振りをしたまま

グラスを傾けていた。

「ふふっ」

善文はそんな詩織を見ながら頬杖を突いて、組んだ足をブラブラさせた。


「こ・・な・・ばになり・・」

二人のあいだに割って入って、店員がひとつ目の惣菜を置いた。

小声で早口だったので、詩織には何だか聞きとれなかった。

「ビール、おかわり!」

善文はビールグラスを店員に渡した。詩織はそんなことにはそっちのけで、

初めてみるその姿に皿に顔を近づけて聞いた。

「なんですか、この伊達巻がとろけたようなものは」

善文は椅子にのけぞり胃に手を当てて笑った。

「ほっほっほ!」

その声も表情も楽しそうで、満足そうだ。

「なんですか、ねえ、そんなに可笑しいですか?」

詩織もついつられて笑う。

「それ、湯葉です。なまゆば」

「え?湯葉?湯葉をなまで食べるんですか?」

「けっこうイケますよ」


善文は真顔に戻って自分の割り箸を割り、机に積まれた

取り皿に湯葉をふたつ取り分けると詩織に渡した。

「ありがとう」

詩織は初めて見る食べ物の方に気を取られて、善文の

左手の薬指に気を回すことができなかった。

なま湯葉なるものを見詰めながら箸を割り、また皿に顔を近づけた。

箸で湯葉の真ん中を押す。切れない。転がしてみた。

しかし切れない。

「一口でいくしかないですよ」

頬杖を突いたまま善文が言った。

「そうですか?では」

詩織はぐにゃぐにゃで掴みどろこのない湯葉を箸で無理

やりに畳みこんで、左手を添えてぱっと口に放り込んだ。

「ん?」

「ん?」

「んー、淡白ですねえ。味がしない…」

それを聞いて善文はまた笑った。

「味がしないことないでしょう。この繊細な味が分からないんですか?」

「分からないことないけど、あ、このとろっとしたところが

美味しいですね、蜜ですか?」

詩織は皿に残ったもうひとつに箸をつけようとした。


善文に二杯目のビールが届いた。善文は受け取るとすぐにビールに口をつけ、

美味しそうに微笑んだあと

「ほんと、佐倉さんて表現豊かで面白いですね」

「は?」

箸をつけかけた手を止め、善文にさっと視線を向ける。

「伊達巻がとろけたとか。白川郷に着いたとき、何て言ったか覚えてますか?

まるで箱庭に入っちゃったみたいって言ったんですよ。

面白いこと言う人だなーっと、ずっと思ってました。佐倉さんと居ると、楽しいだろうな」


----------------------------------------------------------
この物語はフィクションです。実在の人物・団体・組織とは一切関係ありません
スポンサーサイト

テーマ:恋愛 - ジャンル:恋愛

【2008/01/23 22:42】 | 桜、早すぎる春 | トラックバック(0) | コメント(0) |
<<桜、早すぎる春 -10- | ホーム | 桜、早すぎる春 -8->>
コメント
コメントの投稿












管理者にだけ表示を許可する

トラックバック
トラックバックURL
http://greensummer2.blog121.fc2.com/tb.php/27-dc52b91d
この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
| ホーム |
プロフィール

GreenSummer

Author:GreenSummer
東京都在住

カテゴリー

最近の記事

最近のコメント

最近のトラックバック

ブログ内検索

RSSフィード

リンク

このブログをリンクに追加する

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。